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「おいしい」と「うまい」の使い分け
中部大学教授 CUBE特別顧問
深谷圭助先生
日本人の考える伝統的な基礎学力の中心に読み書き計算というものがあります。
読み書き計算は、江戸時代中期以降、爆発的に増加した寺子屋(手習)において教えられていたものです。
読みには、「往来物」と呼ばれるテキスト群が使用されています。
「商売往来」「庭訓往来」「東海道往来」など、さまざまなテキストが出版されていました。
「往来」というのは、往復書簡という意味で、送信する文章の書き方、返信する文章の書き方の手本が書かれているものです。
とはいえ、「東海道往来」などでは、53の宿場とその宿場界隈の様子について、五七五調で詠んだものが掲載されていて、子供たちが諳んじることを目的として編集されていたようです。
当時のテキストは、完全に話し言葉とは異なる、書き言葉に特化したものでした。学習すべき内容は話し言葉ではなく、書き言葉だったわけです。
ですから、江戸時代は、地域により、身分により話し言葉が異なることは当たり前でした。
明治時代に入り、近代的な国家を目指した明治政府は、1872(明治5)年に「学制」を公布して、寺子屋で行われていた初等教育を小学校で行うことにしました。
その時、欧米のカリキュラムやテキストが参考にされました。
近代的な国づくりを目指す明治政府は、すべての国民に日本人としての知識や能力、態度を育てるために、正しい日本語、正しい国家観を教えるため、国語教育や道徳教育の改革をしました。
日本全国、共通理解できるように正しい日本語を整備し、近代的な国語辞典も政府の後押しの下、大槻文彦らによって作られました。
住んでいる地域や身分によって使う言葉が異なることも是正すべき内容でした。
国民としての基本的な能力として、「正しい日本語」を話したり、聞いたりする能力、そして、読んだり書いたりする能力は最も重要な能力とされました。
「方言撲滅」という言葉は、1960年代(昭和40年ごろ)まで国語教育の世界で大きな問題とされていました。
現在では、「方言」なども、日本の言語文化の豊かさを表すものとして尊重するようになりましたが、それまでは、近代(明治以降)に作られた東京山手言葉をベースとする「正しい日本語」をいかに全国隅々まで教えるのかということを熱心に行っていたということになります。
正しい日本語を教えるという考え方は、現在の国語教育においても根強いのですが、日本語をただ覚えて使えるようにするだけではなく、曖昧な日本語にも注目していくとよいでしょう。
曖昧な日本語は身の回りにたくさんあります。「あれ?その使い方でよかったんだったっけ?」そう思ったら、国語辞典を引いてみてください。子供と一緒に引けば更に良いでしょう。
例えば、「おいしい」と「うまい」の違いなどはどうでしょう。
おいしいは、「いしい」という好ましいことを表す言葉に「お」がついた女房詞(にょうぼうことば)です。
つまり、「おいしい」というのは、女性が使っていた、比較的新しい「好ましいことをあらわす言葉」なのです。
それに対して、「うまい」は、奈良時代の万葉集の頃からある古い言葉です。
現在でも、「おいしい」は、女性が好んで用いていて、「うまい」は男性が好んで用いますよね。
そして、「おいしい」の方が丁寧な言葉遣いをしているような気がしますよね。それは、歴史的な使い分けの名残なのです。
こうしたことは、いろいろな国語辞典で調べてみれば分かることです。
言葉の深いところに行ってみませんか。
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